第十八回:葉っぱ対決(ケンニプvs紫蘇) 佐藤行衛

サンチュとならんで、肉やご飯を巻いて食べるときに必ず出て来る「ケンニプ」。えごまの葉っぱである。独特な香りが特徴。統一新羅時代の頃から栽培が始まったという。
このケンニプ、韓国以外で食用にする国がほとんどない。まさに韓国ならではの食品のひとつだ。食べないものはないといわれている中国ですらも食用にされない。
その理由は、ケンニプ特有のペリラケトン(perillaketone)の臭いを 不快と感じる人が多いため。中国、日本、その他のアジア諸国はもちろん、欧州やアメリカに至るまで、「この匂いは苦手だ」という人が多い。韓国人の中にも嫌いな人はいる。
しかし、一度この香りの虜になると、大好きな食べ物となる。
サムギョプサルなどを巻くとき、サンチュより先にケンニプを手にとるのは、私だけではあるまい。脂っこい肉を爽やかに食べることが出来る、絶妙な組み合わせ。醤油漬けにしたケンニプでご飯を包んで食べれば、何杯でもお代わりが出来る。
ケンニプには、βカロテンやビタミンC、ビタミンEが豊富である。これらは抗酸化作用が強く、免疫力を高め、老化防止に効果あり。アレルギーを抑えるα-リノレン酸を多く含むので、くしゃみや鼻水、咳の症状を和らげるのに有効。ケンニプを摂取すれば、風邪の予防に最適といえる。

さて、ケンニプを食べない日本だが、日本には、見た目はケンニプそっくりの、味も香りもまったく違う食用の葉っぱがある。「紫蘇[しそ]」だ。刺身に添えられたり、天ぷらにして食べても美味しい。薬味として、いろいろな料理に使われる、日本料理の名脇役の葉っぱである。
実は、紫蘇とケンニプは、植物学的にもとても近い種類である。
しかし、本当にまったく違う匂いのため、食べられないという韓国人がたいへん多い。彼らはみな「化粧品の匂いがする」と言うが、日本人からしてみればケンニプのほうが化粧品臭いと感じるのだ。お互いに「化粧品」の匂いだと言い張っていることが面白い…。
紫蘇の匂いの主成分は、ペリルアルデヒド(perillaldehyde)だ。ペリルアルデヒドには、強い抗菌作用があり、食べ物の腐敗を防ぐ働きがある。それゆえ、日本の刺身には必ず紫蘇が添えられている。また、紫蘇を料理に使う国は日本だけだというのも、韓国におけるケンニプの立場と非常によく似ている。
紫蘇は栄養価の高い野菜で、βカロテン、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンKといった数々のビタミンを含んでいる。とくにβカロテンは、全野菜の中でもトップクラスだ。
特筆すべきは、血糖値の上昇を抑え、血液をサラサラにし、体脂肪を下げる効果のある、ロズマリン酸が含まれていること。さらにロズマリン酸には、アレルギー症状を抑える作用もある。実際、紫蘇は、薬草としても古くから使われてきたのだった。
ところで韓国ではケンニプをジュースにすることはないが、日本で紫蘇ジュースは密かに人気のある飲料水である。健康食品として取り上げられることも多い。氷を浮かべて飲めば、すっきり爽やか、リフレッシュ! 2009年には期間限定だったが、ペプシコーラが、紫蘇風味のコーラ「ペプシしそ」を発売したこともある。さすがに味は賛否両論だったらしいが…。
さらに、紫蘇を原料に使用した焼酎、「紫蘇焼酎[しそじょうちゅう]」もある。和風ジンとでも言おうか。オンザロックで飲むと、個性的だが清々しい味で、私は大好きだ。
最後に少しより道だが、面白いことに、タイやベトナム料理にはつきものの、そして中国料理にもよく使われる香草のパクチー(고수)は、その匂いが日本人も韓国人も嫌いな人が多い。何しろ韓国じゃ、ベトナム料理であるフォー(쌀국수)にパクチーが入っていないのだから。言えば持って来てくれるが…。
ただし、開城ではキムチに昔から使われていた香草だという。そもそも韓国語の「コス(고수)」という単語が漢字語ではなく、韓国固有語だということは、かなり昔からこの地に自生していたのだろう。
ケンニプ、紫蘇、パクチー、どれもみな自己主張の強い葉っぱたちである。