佐藤行衛

フェドッパプとは、どんぶりに盛られたご飯の上に魚の刺身と野菜がのっていて、そこにチョコチュジャン(唐辛子酢味噌)をかけ、混ぜ合わせて食べる韓国料理だ。いうなれば、海鮮ビビンパプである。「日式」という看板を掲げる日本式の高級海鮮料理屋における、リーゾナブルな一品。デートで日式の店に行っても、これだけ食べて帰る若いカップルが多いとか。
盛られている刺身の種類はいろいろだ。ヒラメ、マグロ、サーモン、イカ、アナゴ、トビコなどなど。野菜は、キャベツ、レタス、サンチュ、エゴマの葉、カイワレ大根、ニンジン、ダイコン、タマネギ、キュウリ、豆もやし、ニンニク、青唐辛子など、これまた豊富。そこに海苔や白ゴマがふってある。目玉焼きがのっている店もあった。ともかく、栄養バランスのとれた、なかなかヘルシーな料理である。
ただし、フェドッパプは決して高いメニューではないので、コスト・パフォーマンスを第一に考える店も多い。そんな場合はほとんどが、お魚よりもはるかに野菜の方が多い、まさに野菜丼といっても差し支えない料理が出てくるのだった…アイゴー、そりゃないぜ。
さて、そんなフェドッパプは、チョコチュジャンと一緒にかき混ぜて食べるわけだが、日本人からして見たら、その様子にはかなり驚く。
「どうして、刺身と、生野菜と、温かいご飯を、コチュジャンと一緒に混ぜるのか? これじゃ全部同じ味になってしまう。別々に食べたほうが美味いのに!」
しかし、もし、日本で食べるように、端から盛りつけを壊さずに食べようものなら、すぐさま食堂のアジュンマが飛んで来て、グチョグチョにかき混ぜてくれるだろう。食べ方を知らない可哀相な日本人に、美味しく食べる方法を教えてあげなきゃというわけだ。まぁ、豪快でワイルドに食すのも楽しいし、郷に入れば郷に従えともいうので、これはこれで良いのだが…。
ただ、この料理、日式料理店では看板メニューのひとつであるため、韓国人の多くが、日本にあるごく普通の食べ物だと思っていらっしゃるのはちょと困る…こんな料理、日本にはありません!

さてそれならば、日本ではどのような料理なのか。器に酢飯を盛り、その上に、魚介類の刺身を中心にさまざまな具をのせてならべたものを「ちらし寿司」という。にぎり寿司が誕生した江戸時代の江戸で生まれたもので、刺身を「散らした」寿司というわけだ。
マグロ、サーモン、イカ、タコ、エビ、ウニ、イクラ(鮭の卵の醤油漬け)、カニ、ホタテなど貝類、アナゴ、しめ鯖といった魚介類に、卵焼きやガリ(生姜)など寿司の素材が一般的で、ほかに紫蘇やキュウリの薄切りなどで彩りを添え、ワサビを添える。
酢飯ではない普通の白いご飯の上に、同じように魚介類を盛ったものを「海鮮丼[かいせんどん]」という。ただし、酢飯で作る、すなわち、ちらし寿司と同じ店もあり、厳密な区分はない。個人的には酢飯で作ってもらいたいが、ホクホクの白いご飯でも十分美味しい。
さて、このちらし寿司、どうやって食べたらいいのか、かなり混乱する。わさび醤油を直接上からかけ、刺身とご飯をかき混ぜつつ食べる人もいるが、実はこれは無作法。ビビンパプの如く全部かき混ぜるなんて言語道断。もっとスマートに、美しく綺麗に食べる。これがマナー。重要なのは「粋」である。
まず刺身をひとつ箸で取り、小皿の醤油につけて食べる。その後、ご飯を口に入れる。ご飯を食べてから刺身ではなく、刺身を食べてからご飯がポイント。この順序を最後まで守る。器は決して持ち上げないこと。置いたまま食べるのが正式マナーだ。いきなり真ん中から食べると見た目が悪いので、手前の左から右へと食べていくと、上品に見える。徐々に盛り付けがなくなっていく様子を、四季の移り変わりを楽しむかの如く、景色を崩さずにかっこよく見せるのが、粋な食べ方ってもんだ。
とはいうのだけれど、結局わさび醤油を上からかけて、ガツガツと食べしまう私でありました…。
実は、ちらし寿司と呼ばれる料理はもう一種類あり、それは、お祝い事によく作られる料理で、別名「五目[ごもく]ちらし」「バラ寿司[ばらずし]」とも呼ばれる。酢飯の中に、干しシイタケ、ニンジン、レンコン、筍、茹で蛸、エビ、焼きアナゴ、イカの煮付け、かまぼこなどの具を混ぜ込み、その上に、細く切った卵焼き、イクラ、きざみ海苔、生姜などをあしらい、彩を添える。色とりどりに飾られた混ぜご飯は、見た目も可愛らしく、女子に人気の一品だ。
